アメリカ合衆国が建国250周年を迎えた。アメリカというと新興国に思われるが、わが国で言えば鎌倉幕府のおよそ150年や室町幕府の240年を超え、江戸幕府が続いた260年近くの期間、合衆国の政治体制が続いていることになる。米国と覇権を争っている中国でも明朝と清朝は280年、唐朝は290年で、300年を超える王朝はなく、現在の米国の体制がいつまで続くのか、民主主義や資本主義の社会実験として興味が深い。
この合衆国の基礎を築いたのが初代大統領ジョージ・ワシントンである。意外にも下手だったと言われる彼の演説には、ある健康上の事情が潜んでいた。
いかに自分の政治理念を国民に理解してもらうか。国民が政治体制と指導者を選挙で選ぶ民主主義国では、指導者にとって重要なのが伝えるスキルである。従って、米国政治のトップに立つ大統領はいずれも雄弁であった。もっとも当代のドナルド・トランプ氏は若干、口がなめらかに過ぎるだろうが。
一方、意外なことに、米国の歴代大統領の中で最も演説が下手だったと言われるのが初代ジョージ・ワシントンである。1732年2月22日、英国植民地だったバージニア東部ウェストモアランド郡コロニアル・ビーチに生まれた。生家は農場と鉱山開発を営む中流家庭で、父オーガスティンはイングランドから身一つで新世界に入植し、財を成した立志伝中の人物。いたずらで桜の木を切った幼いワシントンが正直に父に謝って逆に褒められた――という有名な逸話は、実は19世紀末に、ウィームズという地域牧師によって生まれた作り話であるという。
アメリカンドリームを実現した父は過労がたたって、ワシントンが11歳の時に死去、その後は14歳年長の長兄に育てられた。ただ、この兄も天然痘で死去してしまう。結果、ワシントンは親兄弟の遺産を相続して、かなり大きな農園主となり、併せて植民地軍の士官となった。初陣はフランス軍を排除するためのフレンチ・インディアン戦争。退役後は裕福な未亡人と結婚して資産を増し、農場を拡大しながら地方政府の役職にも就いた。